修士課程最初の実習先は、児童保護局と提携を組む福祉サービス・エージェンシーでした。(のちに、里親斡旋の福祉サービス・エージェンシーに変更。)これには説明が少し必要でしょう。児童保護局(Child
Protective Services:CPS)は州機関(Texas Department
of Family and Protective Services)ですが、その仕事は郡または市レベルに分かれています。私の実習先は民間のエージェンシーでありながら、
児童保護局、
警察(CACU:Crimes Against Children Unit)、
地方検事(DA:District Attorney)、そして
小児病院と提携を組んでいたので、実質的には公的な役割を果たしていると言えるでしょう。1つのエージェンシーに上記全ての施設が入っていて、組織的に通報を受けた虐待のケースに取り組んでいたのです。
そのエージェンシーは三つの市にオフィスがあり、その地域の周辺のいくつかの市で起こった虐待のケースへの介入・調査を行っていました。テキサス州アーリントン市と隣接するフォート・ワース市だけで、年間1万件の通報があるといわれています。実習先であるエージェンシーは年間2500件以上の重度の虐待のケースを調査しているとのことです。
では、このエージェンシーがどのような形で虐待のケースに当たっているのか、図解してみることにします。
虐待のケースは「二重の通報(dual reporting)」の形が取られます。虐待は児童保護局または警察に通報されることによって明るみになります。刑事上、アメリカで「子ども」とは18歳以下(18歳を含まない)を指します。児童保護局は、家庭内で起こったケースを主に重視し、警察は子どもに対する犯罪が行われたかどうかに注目して調査を行います。児童保護局と警察の違いは、児童保護局が「
子どもの安全確保」に力を入れるのに対し、警察は
「犯罪の究明」に注目するところです。
緊急を要するケースは24時間以内に調査が行われます。それ以外のケースは10日以内に調査が行われなければなりません。(ちなみに、児童保護局、警察とも、24時間365日いつでも通報が可能で、ホットラインが設置されています。)
エージェンシーのケース・ワーカーが子どもと保護者に連絡を取り、学校や病院などに聞き込みを行います。その結果、虐待の疑いが固まれば、子どもの一時保護が次のような手順が行われます。
刑法上の仕組みは次のようになっています。
上記の図では述べられていませんが、こエージェンシーでは、虐待を受けた子どもと被虐待児の保護者へのグループ・カウンセリングを無料で行っています。被虐待児へのカウンセリングは「男の子のグループ」、「女の子のグループ」に分かれていて、さらにp5歳―8歳のグループ」、「9歳から14歳のグループ」、「15歳から17歳のグループ」に分かれています。小さい子どもに対しては、プレイ・セラピーやアート・セラピーを行うようです。
被虐待児の保護者に対するグループ・カウンセリングに出席する機会がありました。虐待は、被虐待児だけでなく、その保護者達にも大きな影を落とします。「なぜうちの子をしっかり守ってあげられなかったのだろうか・・・」といった罪悪感や「どうしてこんなことが自分の子どもに起こったのか・・・」という絶望感、または虐待をした者に対する憎悪や怒りに満ちていることがほとんどです。グループ・カウンセリングが効果的な理由は、自分だけに起こった問題じゃないこと、他にも同じ経験をしている人がたくさんいることなどを、お互いに話することで問題に直面し、対処していくことにあります。
また、このエージェンシーは、ケース・マネージメントも行っています。被虐待児、そしてその家庭と密に連絡を取り合い、上に述べたようなグループ・カウンセリングへの出席を促したり、家庭が必要としている福祉サービスの提供などを行います。家庭のニーズはさまざまです。家賃や光熱費が払えなくて困っている場合もあるでしょうし、食料費やバスなどの運賃が必要な場合もあります。育児の方法が分からない、助けてくれる人が周りにいないなどの問題もあります。ケース・ワーカーはいろいろなリソースを探して、被虐待児とその家族の虐待の傷が癒されるように働きます。