■児童福祉の歴史(2)■


::児童福祉が国家的アジェンダとなった 1920 年代::
1920 年: アメリカ児童福祉協会(Child Welfare League of America)が設立される
 ⇒ 公共、民間の児童福祉機関や団体をまとめるきっかけとなり、児童福祉が急速に発達
1921 年: 母子の健康を守る法(Maternity & Infancy Hygiene Act)ができる
 ⇒ 国内最初の、連邦政府による母子支援プログラム
1921 年:コモンウェルス基金が設立される
 ⇒ 連邦政府の補助により各州政府が児童支援クリニックを設立し、子供たちの健康を促進するネットワークができる。定期的な健康診断や、子育て教育、乳幼児のいる家庭への定期的なホームビジットなどが行われるようになる。


::社会保障制度の設立 (The Social Security Act of 1935)::
社会保障の設立は、児童福祉にも大きな影響を及ぼしました。
 ・貧しい家庭の子供への生活保護 (Aid to Dependent Children)が設立される
 ・以下のサービスに、連邦政府から州政府へ補助金が下りるようになる。
 ・母子、児童の保健、健康
 ・ローカル・レベルにおける児童福祉の促進
 ・各州の保健局を通じて、身体障害児童への支援
 ・必要に応じて、手術等のケアを受けられるようになる


::養護施設から里親制度へ::
1930 年代に入り、歴史上初めて、フォスター・ケアに入る児童の数が、養護施設に入る数を上回る。 


::第二次世界大戦と社会福祉の進展::
1937 年:WPA ( Working Parent Assistance 、働く親への支援)が、働く女性のために託児所を始める
1940 年代:託児所(デイ・ケア)を利用する児童の数が 150 万人を超える
 ⇒ 連邦政府の補助金の 50% が育児支援に当てられる
1946 年:スクール・ランチ・プログラムが始まる
 ⇒ すべての子供は、栄養のある温かい昼食を与えられるべきであるという考えを基づき、昼ごはんを持たせることのできない家庭の子供に昼食を支給するようになる


::変化の時代 --1950 年代::
1950 年: ADC (Aid to Dependent Children)が AFDC (Aid to Families with Dependent Children)に
 ⇒「貧しい家庭の子供への生活保護」が「扶養児童のいる貧しい家庭への生活保護」に変わり、養育者に対する支援も加わる
1959 年:マースとエングラー共著「Children in Need of Parents( 直訳:親が必要な子供たち ) 」を出版
 ⇒ フォスター・ケアにいる子供たちの現状を伝える


::通報(Reporting)と児童保護(Child Placement)の時代 --1960 年代::
1961 年:連邦政府の補助金に AFDC にフォスター・ケアへの援助も加わる
1962 年:ケンプ著「The Battered Children Syndrome (直訳:被虐待児症候群)」が出版される
 ⇒ 医学的見地から児童虐待を検証し、話題になる
1965 年:すべての州に、児童虐待の通報義務を課す法律ができる
1967 年:少年裁判所においても、正当な方の手続き (due process) が行われることになる


::永続的なケア・プラニングの時代 --1970 年代::
一時的に行われる児童保護ではなく、長い目で見たケア・プランを進める動きがでるようになる。

1973 年:「Beyond the Best Interests of the Child (直訳:子供にとって最善以上の利益)」が出版される
 ⇒ ゴールドステイン、フロイド、ソルニット共著
 ⇒被虐待児を家庭から引き離すこと、フォスター・ケアに一時保護することだけが子供にとって一番有益か、社会に問題定義をする。
1973 年:児童保護基金(Children's Defense Fund)がイーデルマンによって設立される
1974 年: 児童虐待防止法 (Child Abuse Prevention & Treatment Act)が制定される


::特殊児童に対する支援 --1970 年代::
1975 年:すべての障害児童に対する教育義務法(Education for All Handicapped Children Act)の制定
1978 年: ネーティブ・アメリカンの児童に対する福祉法(Indian Children Welfare Act)の制定
1978 年:Child Abuse Prevention & Treatment and Adoption Reform Act
 ⇒ 先の法律( 1974 年の児童虐待防止法)を改定し、養子制度に関する記述が加えられる


::家庭維持 (Family Preservation) 重視の時代 --1980 年代::
1980 年:養子支援と児童福祉法(Adoption Assistance and Child Welfare Act)の制定
1988 年:家庭支援法 (Family Support Act)
 ⇒「扶養児童のいる貧しい家庭への生活保護(AFDC)」 に児童支援が拡大される
1988 年:P.L. 96-272 を改定
 ⇒ P.L.. 96-272 は、 1980 年に制定された 養子支援と児童福祉法(Adoption Assistance and Child Welfare Act) のことを指す。改定後は、里親・養子を防止し、家庭維持を進める動きになる。


::児童福祉、抑圧の時代 -- 1990 年代::
1993 年:育児と医療休暇法(Family & Medical Leave Act)の制定
 ⇒育児、医療による「無給休暇」を定める
1990 年代:児童虐待の通報、フォスター・ケアに入る児童数の増加


::養子縁組促進の時代 --1990 年代::
1993 年:国際的な養子縁組( international adoption) に関するハーグ会議が行われる
1994 年:異民族間の里親・養子に関する法律(Multiethnic Placement Act)の制定
1996 年:福祉改革 (Welfare Reform) により、 AFDC が TANF に変わる
 ⇒福祉改革は Personal Responsibility and Work Opportunities Reconciliation Act of 1996 という法律が基になっており、簡潔に説明すると、福祉への責任が「国家」から「個人」へと移ったと言えます。仕事をしていることが生活支援、保護を受ける条件となりました。
 ⇒ TANF は Temporary Assistance for Needy Families (貧しい家族に対する一時的生活保護)の略で、 AFDC には実質的に保護を受ける期間に制限がなかったのに対し、 TANF では保護を受けられる期間を制定したのです。福祉に頼らず財政的に自立することを目指す(政治的には)斬新的、そして(保護を受ける側にとっては)厳しい法律となります。
1997 年:養子縁組と安全な家庭を目指す法律Adoption and Safe Families Act)の制定


::これからの児童福祉 --21 世紀::

2001 年:faith-based (宗教の教義に基づいた)社会福祉団体のイニシアティブを政府が促進
 ⇒この傾向は、これからも強くなるとされる

これから児童福祉は・・・
 ・社会福祉の民営化がますます進むと予想される
 ・親族、親戚の間で里親・養子縁組(キンシップ・フォスター・ケア、アドプション)が増えると予想される
 ・兄弟姉妹をまとめて保護をする傾向が強くなるとされる

家族の絆が重視され、子供たちの健全な成長を育む社会を築けるよう、これからの児童福祉への期待はますます高まるばかりです。