■インターンシップ体験記 (1)■

大学生のとき、Prevent Child Abuse New York(以下、PCANY)でインターンをしたことがあります。児童虐待防止のための非営利・擁護団体です。Prevent Child Abuse Americaのニューヨーク支部であり、「子どもに対するいかなる虐待も許さない。起こる前に虐待を防ごう。」をモットーに、「全ての子どもが、愛に満ちた家庭で安全に生活できるよう…」さまざまな活動を通して児童虐待防止を呼びかけていました。PCANYの活動は、大きく五つに分けることができます。

@情報提供、及びヘルプライン(Prevention Information Resource Center & Parent Helpline): 児童虐待予防に関する情報提供・照会センター、及び保護者のためのヘルプラインです。保護者、専門家、児童虐待予防・防止に関して知りたい人に、情報提供・照会を行っています。ニューヨーク州のどこからでもフリーダイアルで、毎日24時間電話を受けています。しかしこれは、虐待通報ホットラインではありません。

Aニューヨーク州、子育て支援ネットワーク(Healthy Families New York): ボランティアのスタッフによる家庭訪問を定期的に行い、幼児を抱える家庭の育児を支援します。子育ての正しい知識を伝えることで、虐待を予防・早期発見する試みです。

B法的・政策の擁護(Legislative and Policy Advocacy): 子どもの人権の保護・虐待予防のために政策が改善されるよう、率先して行政に働きかけます。毎年一月に、Annual Legislative Networking Conferenceと呼ばれる年次集会を開き、前年の活動報告をします。 立候補者・現職議員と連絡を取り合い、児童福祉を擁護してもらえるよう、呼びかけています。

C年次学会(Annual Conferences): 毎年四月、専門家・支援者・個人を招いて、児童虐待防止のための学会(Prevention Conferenceと)を開きます。児童虐待防止をより多くの人達に呼びかけ、共に考えていきます。年次学会・法的学会には、毎年何百人もの専門家や支持者が参加をします。

D広報活動・啓発運動(Public Awareness & Education): ニューヨーク州全域に、広報活動・啓発運動を行います。一人でも多くの人に児童虐待防止について関心を持ってもらうため、ポスターやパンフレットを配布し、キャンペーンを実施します。虐待防止に関する情報提供は、年間何十万件にも及びます。PCANYのメンバーを集め、寄付を募ることも重要な活動のうちの一つです。  

私は、広報アシスタント(Public Awareness Assistant)としてインターンシップをさせてもらえることになりました。PCANYは、英語・スペイン語で活動を行っていて、スペイン語を話すスタッフの方がヘルプラインだけでなく、パンフレットやポスターの翻訳もされています。 私が採用された理由の一つとして、他の言語(日本語)が話せるという強みがありました。日本語による翻訳の仕事を任された当初、私は「翻訳されたものがニューヨーク中に配布されるのかぁ。 緊張するなぁ。」という、単純な考えでしかありませんでしたが…。

また私は、莫大な量のデータ入力も任されました。毎年この時期に、データベースの更新をするのだそうで、私は毎日データベースと格闘をしていました。PCANYは、児童虐待防止に関する情報提供・照会(I & R:Information and Referral)を行っていて、虐待防止に関心のある個人だけでなく、実際に虐待を受けている・もしくは加えている者、そして専門家からも連絡が絶えません。そんな中、データベースはとても重要な役割を果たします。例えば、「近所の子どもが虐待を受けているかもしれない。どうすればいいですか?」という電話があったとします。PCANYは、ニューヨーク州全域にサービスを提供していますので、あちらこちらから電話がかかってきます。そこでスタッフがデータベースを開き、情報が必要な人がその地域でサービスを得られるよう、データベースから探し出して照会をします。データのアップデートは、正確で適切な情報提供にとって欠かせないものなのです。

翻訳にしても、データ入力にしても、仕事に慣れるまで本当の意味に気付かずにいました。しかし、これらが本当に重要な仕事であることを理解するようになりました。翻訳、それは、英語を話さない人達にも情報・サービスを提示し、提供するためにとても重要です。私が翻訳に携わった資料が配布されれば、ニューヨーク州に住む日系人の家族が福祉サービスを知り、利用することができるかもしれないのです。そして、正確なデータを入力することにより、ヘルプラインに助けを求めて電話を掛けてきた人達に、より適切なサービスを照会できるのです。この事に気付いた時、私は、広報(Public Awareness)がいかに大切であるか身を持って感じました。翻訳もデータ入力も、地道な仕事です。しかし、電話が鳴るたびに、「あ。また1人の子どもを助けることができたのかな。」と思い、仕事の重みを実感しました。

この経験を通して、本当にいろいろなことを学びました。児童虐待の結果、いかに多くの物的・人的資本が注ぎ込まれているか。児童虐待は確実に心理・発育上の問題を引き起こし、その治療にどれほどの時間と労力を必要とするか。そして、児童虐待に伴う弊害を少しでも減らすために、いかに多くの人達が労苦を問わず日々努力しておられるか。臨床(現場)で働くケース・ワーカーが、PCANYのような団体の活動によって支えられていることを知りました。マイクロはマクロ無しには成り立たず、その逆もしかりなのです。 同じ目的(たとえば、児童虐待防止といったテーマ)を持って働くすべての専門家が、手を取り合って協力し合わなければ、物事を改善していくことはできないんだなぁと思いました。