■インターンシップ体験記 (3)■

修士課程最初のインターンシップ先は、フォスター・ケア(被虐待児を里親に預ける)エージェンシーでした。児童虐待がもとで児童保護局(Child Protective Services: CPS)が介入し、裁判所によって保護者(加害者)の元に子どもを一時的または永久に返すことができないと判断された子どもをフォスター・ケア(里親)に入れるエージェンシーです。このエージェンシーはキリスト教の教えに基づいて1992年に創設されました。創始者自身も少年時代に家庭内暴力が原因で児童保護局が介入し、母親から引き離され、里親を転々とした経験があるのです。最終的に落ち着くことになるフォスター・ホームでとてもよい経験をしたことから、同じ境遇にいる子ども達にも素晴らしい家庭に巡り合わせてあげたいという夢が、フォスター・ケアのエージェンシーを創設する原動力になったのでした。

フォスター・ケアは日本語で「里親制度」と訳されます。広辞苑によると里親とは、「他人の子を預かり、親代わりとなって養い育てる人」とあります。また、「児童福祉法に基づき、都道府県知事の委託をうけ、保護者のいない児童などを引き取り養育する者。」という記述もあります。

テキサス州のフォスター制度をみていく前に、ここで少し簡単なエクササイズをしたいと思います。まず、紙とペンを用意してください。

1. あなたが一番大切にしているものを5つ書き出してください。
2. あなたにとって大切な(人間)関係を5つ書き出してください。
  (例:両親、兄弟、夫、子ども、友達・・・など)
3. あなたの趣味、するのが大好きなことを5つ書き出してください。
4. あなたにとって大切なこと、信条など5つ書き出してください。
5. あなたが恐れている事・物を2つ書き出してください。

では、質問1で書き出した5つの中のどれか2つに、大きく罰点(X)をつけて消してください。同じように、質問2〜4からも、それぞれ2つずつ消してください。そして、あなたが恐れている物事に、2つ何か怖い物を付け足してください。

それでは、1〜4の答えから、さらにそれぞれ2つずつ罰点をつけて消してください。そして、あなたが恐れている物事のリストに、「他人から拒否・拒絶されるのが怖い」と付け足してください。

さて・・・あなたのリストは罰点でいっぱいになってしまいました。大切な物事をたくさん失ってしまいました。それに比べて、恐れている物はたくさんあるはずです。どんな風に感じますか?

これこそがまさしく、虐待を受け、保護者から引き離された子ども達が直面していることなのです。大切なものを失い、恐怖や不安に怯えながら生きているのです。

虐待を受けた子どもたちはさまざまな問題を抱えています。心理的、行動的、身体的、病理的、精神的・・・数え上げればきりがありません。暴力の下で、また虐待を受けて育った子どもはアタッチメント(人とつながり、愛着)を築く能力を著しく欠いていたり、言葉で表現することができず、さまざまな問題行動を起こしたりします。 

子どもが児童保護局に保護されると、まず心理面での評価が行われ、Level of Care(ケアのレベル)が決められます。LOCとは子どもが必要としているケアの質のことで、basic(基礎)、moderate(中度)、specialized(*特殊*)、Intense(高度)に分かれています。最近LOCの改定がありこの4段階になったのですが、それまではLOC1〜6の6段階でした。

*Specializedを「特殊」と訳しましたが、実際は中度と高度の真ん中に位置します。LOCは順番になっていて、けっしてspecializedがどれよりも「特別」にケアを必要としているという意味ではありません。*

LOCのケアの質は、こうなります。
ケアの質
(改定後)
ケアの質
(改定前)
ケアの内容
Basic
(基礎)
LOC 1,2
(1) 制限が最も少なく、普通の家庭環境内で育てられる。
(2) また、普通の家庭環境内で、それぞれの子どもに合った規則や指導を与えながら育てられる。
Moderate
(中度)
LOC 3,4
(1) 施設やセラピューティック・フォスター・ホーム(後に説明します)において、規律、規則に基づき育てられる。また、必要に応じて、カウンセリングやセラピーを受ける必要がある。
(2) また、施設や特別な知識・技術を持ったセラピューティック・フォスター・ホームにおいて、規則、規律に基づきながら育てられる。また、定期的なセラピーやカウンセリングなど、個別の治療の必要がある。
Specialized
(特殊)
LOC 4,5
(1) 施設や特別な知識・技術を持ったセラピューティック・フォスター・ホームにおいて、規則、規律に基づきながら育てられる。また、定期的なセラピーやカウンセリングなど、個別の治療も行われる必要がある。
(2) 治療施設に入る必要がある。重度の問題を抱えており、厳しい監視下で集中的なセラピーやカウンセリングを受ける必要がある。
Intense
(高度)
LOC 6
重度の問題を抱えており、常に監督を必要とし、治療・ケアを受ける必要がある。認可を受けた治療施設で厳しい監視の下、包括的な治療サービスを受ける必要がある。

<参照> Youth For Tomorrowより

フォスター・ケアに入る必要のある子どもは2種類に分けることができます。1つはbasic child(ベーシック・チャイルド)で、上記の基礎レベルに位置します。もう1つはtherapeutic child(セラピューティック・チャイルド)と呼ばれ、上記の中度〜高度のように、特別なケアやサービスを必要とする子どもを指します。

話をエージェンシーに戻します。このエージェンシーは、特にセラピューティック・チャイルドと判断されたケースが児童保護局から送られてきます。セラピューティック・チャイルドは、想像をはるかに超える問題を抱えており、特別なケアを必要とします。例えばネグレクト(育児怠慢、放棄)のケースだと、子どもはトイレ・トレーニングを受けていないだけでなく、身の回りのケア(シャワーを浴びる、顔を洗う、歯を磨くなど)、さらには食生活(たとえば、決まった時間にご飯を食べない。お菓子ばかり与えられていたので、普通のご飯が食べられないなど)の部分で、習慣を身に着けていないことがほとんどです。私が驚いたケースは、15歳でトイレに行くことを知らず、フォスターで1からトイレとは何か、用を足したくなったらトイレに行かなければならないことなどを教えなければならなかったことです。また、虐待を受けた子どもは、心理的、また身体的に重度な問題を抱えていることが少なくありません。

そのため、セラピューティック・チャイルドをケアする者も、ある程度の知識や技術を持っていなければなりません。フォスター・ホームにもbasic foster care(ベーシック・フォスター・ケア)とtherapeutic foster care(セラピューティック・フォスター・ケア)があります。フォスターをするためには児童保護局が発行するテキサス州の資格が必要です。この資格を取るためには長くて細かな段階を踏まなくてはならないのです(このステップについては、次回のレポートで紹介します)。実習先のエージェンシーは、フォスター・ホームを育成するトレーニングも行っていて、州と提携していることから、さまざまなプロセスを無事修了した家庭に資格を与える役割も担っています。 

 ちなみに余談ですが・・・このエージェンシーが扱うほとんどのケースはセラピューティック・チャイルドなのです。しかし、虐待がもとで、保護者から兄弟姉妹まとめて引き離す場合、兄弟姉妹を同じフォスター・ホームに入れたほうが良いと判断された場合は、たとえある子どもが低度(basicレベル)のケアを必要としていても、エージェンシーが介入することがあります。

このエージェンシーで実習を始めて感じたこと。それは、ケアを必要とする子どもの数があまりにも多いのに対して、セラピューティック・フォスター・ケアを提供できる家庭が少ないということです。その理由としては、フォスターになるまでのプロセスに莫大な時間と調査を必要とすること、フォスター・ケアに対する理想と現実がかけ離れていることなどが考えられます。よいフォスター・ホームを養成するのは時間も掛かり大変なプロセスですが、虐待などで傷ついた子どもをさらに危険にさらさないために重要なことだと思います。

日本ではあまり聞くことのないフォスター・ケアの分野を垣間見れて、子どもが受けている虐待にショックを受けることばかりですが、子ども達がまた新しい関係を築く架け橋になっていることをうれしく思いました。