■メンタルヘルス専門家間の境界線■

アメリカでは、「メンタル・ヘルス専門家間の境界線」はどこで引かれているか? まだまだリサーチ中なのですが、その過程で気付いたことを今日は書いてみようと思います。

日本では、「メンタル・ヘルス専門家間の境界線」が比較的はっきりしているように感じられます。例えば「医師法」では、医師のみが医療行為にじゅんずることができると定めています。医療行為は医療・心療を含むようなので、医師の権限が他の専門家(例えば心理士やカウンセラー)を凌いでいます。

アメリカでは、メンタル・ヘルス専門家は、精神科医、臨床心理学者、ソーシャル・ワーカー、カウンセラーです。アセスメントをし、診断を下すのは精神科医だけではありません。臨床心理学者もソーシャルワーカーにもそれらの権限があり、さらに心理療法をすることもできます。そこで気になるのが、やはり「専門家間の境界線」。同じように診断、治療ができるのであれば、各専門家の違いは何?ということになってくるのです。

各専門家を異にしているもの。つまり、専門家間の境界線を引いているものとして考えられるのは、以下の4つです。
・法律
・職業倫理
・免許(国家資格、州資格など)
・教育機関

まず、各専門家の権限を定めた「法律」があります。テキサスでは、Occupations Code(職業法)とHuman Resources Code(人的資源法)がそれに当たります。職業法第505章、人的資源法第50章にソーシャル・ワークに関する記述があります。別名Professional Social Work Act(ソーシャル・ワーク法)とも呼ばれるこの項の中で、ソーシャル・ワークの定義、ソーシャル・ワーカーの権限が示されています。

また、各専門分野には「職業倫理(Code of Ethics)」が存在し、その専門分野に携わる人々の価値観、倫理・道徳的行動規範を示します。ソーシャル・ワークの職業倫理はNational Association of Social Workers(全米ソーシャル・ワーカー協会)が定めていて、ソーシャル・ワーカーは職業倫理に順じた行動をとらなければなりません。また、それぞれの州がさらに職業倫理を定めている場合があります。テキサス州のソーシャル・ワーカーは、「NASW職業倫理」と共に、「テキサス州ソーシャル・ワーカー職業倫理」にも通じている必要があります。

専門家とその他の境界線を引くのは「ライセンス(国家資格、州資格)」です。有資格者と無資格者を区別することで、専門分野の権限を守り、さらに無資格者からクライエントを守るのです。ソーシャル・ワークは州ごとに資格が違うため、自分が働く予定の州で資格を有していなければなりません。テキサス州ではTexas State Board of Social Work Examiners(テキサス州ソーシャル・ワーク資格試験委員会)という州の役所が資格発行を行っていて、Association of Social Work Boards(ソーシャル・ワーク理事協会)という団体が実施する資格試験に合格しなければなりません。

「教育機関」は、専門家を育成し、ライセンス取得の資格を与えます。教育機関は、専門知識や技術を教えるだけでなく、専門家としての価値観・倫理を植え付ける場所でもあります。テキサス州でソーシャル・ワーカーになるためには、ソーシャル・ワークの学位(学士号以上)を有していなければなりません。アメリカにはCouncil of Social Work Education(ソーシャル・ワーク教育協議会)という団体があり、ソーシャル・ワーク教育の質の改善と向上のため、認可プロセスを司っています。ソーシャル・ワーカーになるためには、CSWEに認可された大学・大学院を卒業していることが第一条件です。

はっきりとしてもいい事・駄目なことを定めるのが「法律」で、大きな外枠です。望ましい行動を提案するのが「職業倫理」。海に例えるなら、海自体が法律で、波打ち際が職業倫理(←時と場によって、波が満ちたり引いたりする。つまり、倫理的言動が当てはまる時と当てはまらない時がある。)ライセンスによって専門家とその他を区別し、それらは教育によって強化されている・・・と言えます。

次の雑記では、テキサス州のOccupations Code(職業法)が示す、ソーシャル・ワーカーの定義と権限、その他専門家の定義と権限を見てみたいと思います。  

SWN Blog: 2/11/05掲載)