■アメリカ社会におけるソーシャル・ワーク■
もし世界が完璧な場所であるならば、すべての人々に暖かくて安全な住宅があり、栄養のある食べ物が十分にあり、充実した仕事もあり、よい医療サービスもあって、愛すべき友人や家族に囲まれていることでしょう。日常のストレスもなく、犯罪も苦悩もないことでしょう。すべての人が充実した意味のある人生を送っているはずです。ところが世界は完璧な場所とはいえません。それゆえにソーシャル・ワークという専門職があるのです。ソーシャル・ワーカーは、不完全ゆえに生まれる社会の矛盾の中で暮らしている人々、そして社会そのものを改善するために働いています。
ソーシャル・ワーカーは、不完全な世界に満足することがありません。この世の中を見渡すと、飢餓に苦しむ子供たちがいたり、身体障害者が充実した生活を送れずにいたり、女性や子供たちが身体的性的虐待を受けていたり、マイノリティーの人々が平等な機会を与えられずにいたり、シングル・ペアレントが十分に子供の世話ができなかったり、情緒的または知的障害者が異質だという理由で差別を受けたり・・・そういったことがまかり通っているのです。孤独や、飢餓や、差別、貧しい住環境、家庭内暴力や虐待、そういった問題に悩んでいる人が1人でもいる限り、ソーシャル・ワークは存在し続けるのです。
ソーシャル・ワークは、アメリカ社会にとって欠かせないものとして、20世紀に生まれた専門分野です。ソーシャル・ワークの発展は、まるでローラー・コースターのように、人の幸福や福祉サービスへの人々の関心と共に薄れたり高まったりしてきました。人々の幸福に重点を置くような政治的風潮が高まる時には、ソーシャル・ワーク職も巷に溢れ、社会問題に関心のある人々がソーシャル・ワークの分野に流れ込んできます。しかし、経済成長を重視するような保守的な政治的風潮が高まると、人々の幸福はおろそかにされ、人権よりもビジネス志向が強くなってしまうのです。そんな時は、ソーシャル・ワークへの人々の関心も薄れ、有能なソーシャル・ワーカーも少なくなりがちです。明らかに、ソーシャル・ワークは、時代の風潮や背景、社会や政治哲学に左右されます。
時代によってソーシャル・ワーカーの需要・供給が左右されるとはいえ、この専門分野はどの時代においてもとても必要とされています。必要とされる福祉サービスも、時代によって変わるとはいえ、ソーシャル・ワーカーの役割がなくなることはないばかりか、ますます増えています。ソーシャル・ワークは、アメリカ社会構造の中心をなしているといえるでしょう。
なぜアメリカ社会でソーシャル・ワークが重要なのでしょうか。ソーシャル・ワーカーは、人々が社会で活躍することを妨げるような社会問題を解決する手助けをし、人々の生活の質を向上するために働いているからです。ソーシャル・ワーカーはいろいろな分野で活躍をしています。
ソーシャル・ワーカーの中には、直接サービスを提供する人たちもいます。個人や家族、グループなどにセラピーをしたり、福祉サービスを提供したりする場合です。問題を直接解決する手助けをしたり、はたまた生活の質を向上するようなアクティビティーを紹介したりするのです。
間接的にサービスを提供する場合もあります。地域社会、組織、法律、政府や政策に働きかけて、人々の生活を向上していくような場合です。
必要とされている福祉サービスを提供し、すべての人々の生活の質を改善向上するよう貢献することは、やりがいのあることです。ソーシャル・ワーカーは、自分に出来る範囲で些細なことであっても、人々のそして社会の幸せのために貢献をしていけるという充実感を得ることができる人たちなのです。
“We, the people of the United States, in
order to form a more perfect Union, establish
justice, insure domestic tranquility, provide
for the common defense, promote the general
welfare, and secure the blessing of liberty
to ourselves and our posterity, do ordain
and establish this constitution for the United
States of America.” --Preamble to the Constitution
(私たちアメリカ国民は、理想の連邦国家を作るため、公平を築き、国家の安定を保証し、国家を防衛し、社会の福祉を促進し、すべての人々と後世のために自由の権利を確保していくことを、アメリカ合衆国憲法に定め、制定する。)
アメリカにおけるソーシャル・ワークの基本概念は、上記のアメリカ憲法序文に集約されているといえるでしょう。国の確固たる強みは、いかなる場合においても人々の幸せ、そしてニーズを満たす基本となるのです。
他のさまざまな専門分野と同じく、ソーシャル・ワークも、社会のニーズを満たすために存在します。ソーシャル・ワークのように専門的に援助を差し伸べる職業が確立されている国はそんなに多くありません。